THE WORLD IS YOURS.                            =reminiscence=





 水滴が秀弥の肌に爆ぜた。
「………んぅ…」
 ほとんど意識がなくなっている秀弥はその刺激で瞼を震わせる。成瀬はその無意識の所作にくすりと微笑った。本当に、ひどく官能的な仕草をする。しかもそれを意識せずにしているのだ。秀弥の周囲にいる連中はよく普通に振舞えているなと思う。
(あの時………こいつが震えた途端………)
 成瀬は眼裏に1つの光景を思い出していた。
 欲しいなと思った。
 上目遣いの控えめな目を見て。成績票を返してやるだけのつもりが、心が動いた。
 強引に事を進めていった感はある。それでも、そうさせてしまうぐらいに気持ちの方が先急ぎしていたから。
 成瀬はふとすれば回想に入る思考を、首を軽く振って現実に戻した。裸のまま時間をかけてしまったら腕の中の少年が風邪を引いてしまうかもしれない。シャワーの赤い印のついたほうのコルクを回す。湯温調節された温水が降り注ぐ。
「………あ………ぅん、っ、なるせ………?」
 さすがにそれには意識が覚醒させられたか、秀弥が薄くまぶたを開いた。浴室の中に視線をさ迷わせて、それからようやく背後の成瀬に気づいた様子だ。しかし、見知らぬ場所で意識を取り戻した秀弥は所在無さ気に体を丸くさせた。ついさっきまで初めての行為を身に受けて、そしてこの状況に不安になっているのかもしれない。成瀬は濡れて顔に張り付いた秀弥の一筋の髪を毛束に返してやる。
「…そのままじっとしていて」
 浴室内にこもるシャワー音に紛れて霧散しそうに小さく低い声。しかし、腕に抱いた秀弥の耳元で囁いたため、秀弥の耳にはきちんと入ったらしい。丸まった体をさらに丸くする。首筋が限界まで伸ばされ、俯いてしまった。
 その首筋に成瀬は軽く舌を這わせた。
「ゃ…あ………!」
 秀弥の体がふぅっと弛緩する。その隙を誤らず、成瀬は指を二本、秀弥の秘部に侵入させた。
「……っく!」
 息を飲み込む秀弥。
 突然のそこへの刺激に頭も体もついていけてないのかもしれない。もしくは、また再び行為が始まるのかと、その予感におののいているのかもしれない。
 成瀬は秀弥の耳元に唇を寄せた。
「……変に誤解されると、それに沿うようするが?」
 微量の笑気を含ませて告げる。
 その言葉で誤解をさらに膨らませてか秀弥は身を硬くする。成瀬は少し笑って、そして突き入れた方の指を円を描くように動かしてみせた。途端、熱っぽい秀弥のため息が零れる。
(ばらばらだな………)
 言っている事も、反応も、一瞬で相反する仕草を見せる秀弥。
(可笑しいな………)
 様々な意図を孕ませてそう感じる。成瀬は抱き寄せていた方の手を下方へずらした。自分では上体すら起きあがらせたままでいる気力のない秀弥の体を胸で抱き留めて。しんなりと力を失った秀弥のそれへ、指を絡ませる。
「ひ……ぁ……あ」
 拒否するように体を捩じらせる秀弥。しかし口から漏れる呼気はさらに濃密に熱くなる。
 相反する、仕草。
 どうしてもその仕草をすべて支配してみたくなる。
(独占欲とでもいうのか………?)
 脳内に連想されたのは苦い単語。
 振り払うように、成瀬は両方の指を巧みに動かし始めた。本来ならただ単に、秀弥の中に吐き出してしまった己の欲望を処理してやるだけのつもりだったその時間が、淫欲に濡れたものになる。シャワーの熱すら、それを高めさせるだけ。
 それでも片方の指は溜まった精液を掻き出すように蠢かせる。しかしそれだけに終始しているわけでないのは、時折そこに当たるように、意地悪く焦らしてしまう事からわかる。そしてもう片方の指は、ただひたすらに秀弥を快楽に酔わせさせる動きを入れる。上下に激しく擦ってやると、秀弥のものはすでに欲望を吐きだし尽きて張り詰めさえしないものの、うっすらと反応を示してくる。びくびくと成瀬からではない揺れが入るのは、それは秀弥の腰から来るものだった。
 秀弥の口からは、ひっきりなしに快感を訴える声が溢れた。浴室に響き渡る。
「ぁふ……んんっ! はぁ……ああぁっ、」
 ざあざあとシャワーが降り注ぐ。

―――――全部、欲しい。
 

 軽いデジャヴ。


 ざあざあと降り注ぐのは、時間雨量で20ミリを超える大雨だった。窓をびっちり閉めていても部屋の中へ乱暴にその音を響かせていた。
 まだとても小さくて、その日は特別で、成瀬は電話をかけてしまった。

―――早く帰ってきてよ。

 その家には嫌というほどたくさんの人間が常駐していた。けれど、その誰しもその日が特別なんて考えない。そう思うのは、自分と彼女だけだったから。
 
 この気持ちが共有できるのは、彼女しかいなくて。
 特別な日だからこそ、その日はすべて共にして欲しくて。
 心細くて。雨ばかりが耳にこびりついていて。

 急かしたつもりはなかった。
 けれど、あまりそういう我侭を口にしない息子の一言に、彼女は先を急いだ。


 成瀬は口の中だけで舌打ちをした。
 秀弥のものを苛める指の動きを止める。
「あと少しだから」
 告げると、体内を淫らにかき乱していた指の動きを統一させる。掬い取り、掻き出すという一連の流れをただオートマティックに続ける。全部が終了したころには、秀弥の意識は再び遠のいていた。力なく身体を成瀬に凭れかけさせている。
(このまま………)
 ふとそういった意識が浮上してくるが、成瀬は首を振ってその考えを振り払った。
 ぐったりとなった秀弥の体を抱えると、シャワーの栓をひねって戻した。ざあざあと、雨音にも似たシャワーがおさまる。ぽたぽた雫を垂れる前髪をかきあげて、露になった秀弥の額に口付けた。
「迎えを呼ぶから、もう、お前は帰れ」
 セリフと口調はあまり比例していない。しかしそれは、すでに意識を暗転させた秀弥には届くはずがない。虚しく浴室にこもるだけ。
 成瀬は秀弥の腰と脇に腕を廻らせると、その身体を持ち上げた。同じ高校二年生とは思いがたいぐらい華奢な秀弥。成瀬が力を加えたら、その腰も首も壊れてしまうかもしれない。しかし今は、その折れそうな身体をすべて成瀬に預けてしまっている。
 成瀬は苦笑した。
(………無防備だな)
 わかってないな、と思う。
 自分が身体を任せている男が何を考えているかなんて、きっと、想像の域を超えているのだろう。だから、こうやって簡単に意識を手放す。
 成瀬はバスタオルを掴むと、そのまま脱衣所を通り抜け、寝室のベッドに秀弥を下ろした。持ってきたバスタオルで秀弥の全身を包みこむ。その感触にくすぐったさでも覚えたのか、秀弥は寝言のように「ぅ………ん」と呟くと、右に寝返りを打った。
 起きているのだろうか………
 わからない。けれど、成瀬は秀弥の首筋からそっと耳元に口を寄せた。
 その耳元で、囁く。
 (聞こえてないかもな………)
 まあ、いい。別に聞かせるための言葉ではないから。
 成瀬は秀弥の全身を拭くと、ベッドの濡れてない方へ秀弥を移動させ、その身に毛布をかけてやった。電話をするために立ち上がる。
(あと………一時間ぐらいしてからでいいな)
 高原に、「一時間後に車を寄せるように」とでも言っておけばいいだろう。
 それまでは。

 独占欲なのかもしれない。
 けれど、それまでは―――




ぎゃふん(死語)
お待たせしまくったあげく、こんなものだったり………
時間軸的には、ROUND4の後という感じです。
最初リクを頂いた時すぐさま思いついた話からすると、もう全く話が変わってしまいました。
ま、成瀬の過去の話を少し書こうというところは同じなのですが。
今回、成瀬の家族についてはじめて具体的に書いたような気がします。
(具体的という日本語を完全に取り違えている様子)
ではでは。リクを頂いたやまねこはうす様、本当にありがとうございます。
これからもよろしくお願いしますvv

(02 10.27)


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