「ププププレゼントって何!?」
川瀬の悪辣な笑い方に、しっかりとただならぬモノを感じ取った航平である。縋り付いていた胸から逃げようと体をそっと離すつもりが、いつの間にやら回っていた川瀬の腕に、腰のあたりをがっしりと捕獲されていた。
くくくくっとイヤ〜な笑い声が頭上に降ってくる。
「オマエ、サンタ。俺、善良な良い子。つまり、プレゼントもらう資格は大いにあるワケ」
「……ななななななっ」
「この場合、わかってるだろうけどプレゼントはオマエな。ま、当然の成り行きってヤツで」
「あわわわわ………」
「こーへいちゃんも意外にサービス精神旺盛なんだな。感心だ」
片手で腰を引き寄せながら、片手は航平の前髪付近をぐしゃぐしゃーと撫で繰り回す。そしてその手はさも当たり前の権利と言わんばかりに航平の顔を―――眉毛のラインに沿って親指を這わせたり、睫毛を震わせたり、そこから頬の高みを滑って唇にたどり着き、そのふっくらした下唇ををぷにりと押したりと縦横無尽に動き回る。
その指が力なく開かれたままの口の中へ侵入し、舌の先をちょこんと突ついたとき、航平はようやく、ようやくにして反論を舌に乗せていた。……しかし、カッコ良く決めたいトコロなのに、その言葉は川瀬の指に舌の動きを減じられて、やたらとヘベレケな発音になってしまう。
「ららららって、7時からパーティがあるんらろ!! 間にあふぁない! 離せ、バカ!………って、ああああああああああああ、ど、どこ触ってんらよ!」
腰に回ったほうの手が、密やかに下方へ移動して、サンタワンピの裾から内部へ滑り込んでいたのだ。航平は、逃げるよりも何よりも両手でその手のそれ以上の侵入を防ごうとする。
「へえ。ほんのついさっきまではもうパーティ行かないって言ってたじゃん」
だから時間は腐るほどあるけどなぁ。
川瀬は航平の抵抗なんて、いつものように意にも介せず苦にも感じず、したいがままに航平の太ももの内側をさすり上げた。
「…あ、や、やっぱ……行く………行くことにひたのっ!!!!!!」
航平はれろれろな口調ながらも、必死になって反撃した。
だって、もう、その川瀬の触り方に実はいっぱいいっぱいだったから。川瀬に触られたら、いつだってそんな風に自分ばっかりめちゃくちゃアツくなって、そんな熱にまだぜんぜん慣れてないのだ。
それに、電気なんかめちゃくちゃ晧々と部屋を照らしてるし。
着ているのなんか、男のくせしてワンピだし。
(そんなの絶対絶対、やだぁああああああああああああああ!!!!!!!!!!)
航平のただでさえ人より過大な羞恥心は、今や火の車だった。
「大丈夫、大丈夫」
スカート内部に差し込まれた手はそのままに、川瀬は航平の口の中から指を抜き出して、その指で航平の唇を濡らした。その、直接的でもない川瀬のやり方に、煽られ翻弄される。わざわざ濡らした唇を味わうように舌を這わされて、航平は抵抗する力がしうしう霧散するのを感じた。
「あ……っ、な…にが、だいじょー…ぶ、だよぉ」
それでも、最後の余力で呟く。しかしその答えは、航平の反抗心を根こそぎ奪うパンチ力のある一言で。
「イブの夜のサンタが忙しいってのは、これ世界常識。オッケ?」
オッケ…って、そりゃもう全然、断然、良くなんかないに決まってるけど、もお、これ以上何を言ってもコイツが留まるはずがないのだけはこんちくしょうなぐらい良ぉっくわかった。
でも、でもでもっ………!!!!!!
「スカートってヤリやすくていいなぁ」
とか。
「てか、めちゃくちゃエロいな、航平の生足」
とか。挙句の果てには、
「汚したら大変だしなー。仕方ないから、ちゃんと装着しようなー」
って!!
(装着って、ナニをドコにナンノタメニにするんだよーっ!!!!!!!!!!!!!!!)
さくさくさくさくマイペースに物事を進めていく川瀬に、航平はううううううと恨みがましい上目遣いを突き刺した。心臓とかもう役立たずで、各器官の機能なんかもきっとおろそかになっちゃってるはずだ。体のどこもかしこもビリビリしてるし熱っぽい。
川瀬はちゃっかり航平の体勢をイイ様に変えつつ、声にならない航平の疑問に答えてあげた。
「脱がすのもったいないじゃん」
ももももももったいないって………
………
……………!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「へっ、へんたい!! 川瀬の変態エロ親父!!」
ひとしきり心臓の動きを止めてから、航平はアワ食って喚いた。必死の力で川瀬を押しのけようとする。が、いつものことながら航平の細腕が川瀬に敵うはずなんてない。逆にむぎゅ〜っと抱きしめられてしまった。そしてその川瀬の胸に押し付けられた耳元を、上からべったりと舐め掬われた。それだけで飽き足らず、舌を耳の中まで入れられる。その小さな動きまで、鼓膜にぴちゃぴちゃ伝わるぐらいの深さ。
「っ…やぁ………、ぅん」
航平には過度のやり方。わかっていて、一瞬で航平の理性を奪い取った川瀬は、抜き取った舌先で付近を舐め取りながら囁いた。
「一回で済ましてやるつもりだったのになぁ。こーへいちゃんプレゼント割り増し決定な」
その囁きはスカート内部の指の動きと連動する。
すぅっと太ももから上へ走らせた指は、トランクスの緩めの裾かららくらく侵入を果たした。その動きの性急さとは似つかわしくないぐらい優しいタッチで、航平自身を手の中に包み込む。
「あ、や、………ぁあん…ぅ」
そんな航平の熱にウかされたような喘ぎを間近にしながら川瀬が思っていた事は、(……やっぱスカートって楽な上にエロイ)なのだから、航平の指摘もあながちはずれではないのかもしれない。
川瀬はリズムをつけて航平のモノを揺さぶり始めた。
それはほんの数回で航平の感覚を最大限まで高めさせる。先端の方を握った指先にじっとりと先走りの濡れた感触。
(………あ、やば)
川瀬が慌てて背後の棚をガサゴソやり始めたのは言うまでもない。
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「もぉ、ぜったいオマエ信じらんない!!」
航平は川瀬のベッドの壁側の隅で、壁側を向いてぶーたれていた。
だって、コイツ、ホントに本気に2回ヤリやがったのだ!!!
しかも、2回ってのは川瀬が2回ってことで、その間航平が何度イかされたかなんて、数えたくもないぐらいで、あああああああああああああれだって、その間2回は代えたし………そそそそそそのうえ、服着っぱなしだったから、なんか汗でぐしゃぐしゃだし。
(信じらんない、マジ、エロだ、エロ親父だ。川瀬のばかーっ!!!!!!!)
しかも、自分ばっかりやたらカッコよく着替えてるのだ。そんでもって、「ホラ、大分遅れたし、マジ急ぐぞ!」なんて言うのだ。
「俺、もぉ、絶対ヤダ! 疲れたし、立てない」
パーティなんて死んでも行くか。チクショウだ。こんな格好で川瀬にヤラれたなんて、誰が知らなくても航平が魂まで染み込んで覚えてるのだ。恥ずかしくて絶対人前に出れない! 出られるわけがない!
航平はむっつりとへの字顔でふて腐れていた。壁側を向いて、てこでも動かない構えである。その頬に、ふんわりと柔らかな感触が舞い降りた時も、意地でも動かなかった。
けれど―――――
「こーへいちゃん。機嫌直せよ、コレやるから」
ほれほれと、川瀬は頬に触れたその柔らかいモノを抓んで、それで航平をくすぐり始めた。柔らかな、でもちょっとちくちくしたカンジもある……毛先?
視界の一番隅っこで真っ白なふわふわしたものが揺れていた。
「俺からのクリスマスプレゼント。寒いし、ちょうどイイだろ。コレ着けて行こうぜ。な」
猫なで声に等しいレベルの川瀬の声。……と、その頬の感触にすっかりだまくらかされるのは、もはやすでに航平の特性といってもいいかもしれない。
航平はがばっと上体を立ち上がらせて、川瀬に振り向いた。
「川瀬っ、でも俺……プレゼントとか………」
生まれてこの方、クリスマスはプレゼントをもらうばっかりで、プレゼントをあげるっていうこと自体失念していた航平である。当然、川瀬へのクリスマスプレゼントなんて用意していない。航平はきゅうっと、首元からしな垂れた真っ白なマフラーを握り締めた。なんだか、すごい柔らかな肌触りがする、マフラー。川瀬はそれを航平の首にゆったりと巻きつけた。
「いや、俺は充分過ぎるほど堪能したのであって、太陽王の最盛期レベルには満足だな」
最後の一房を航平の肩に回して、川瀬はしばしその姿を鑑賞した。
「………おー、似合うじゃん」
そう言うと、ぐしゃぐしゃーって航平の頭をかき回す川瀬。堪能とかやっぱりエロ親父くさいけど、それにモノにつられたってワケじゃないけど、航平はなんだか胸がポカポカなるような気がした。
「―――川瀬、スキ」
自然に言葉があふれていた。
にや〜って、おさまりの悪いやたらとしまんない笑顔とかになって。
そう。
その時は、この世界にサンタとかいて、イブの夜にトナカイを走らせて世界中のよい子にプレゼント配りまくっているっていわれても信じられた。そのぐらい、ワケもわかんなく、幸せって気分で。
けれど、そんなファンタジーは所詮幻想だ。オトギ話なんだってことを、航平は知る。
「俺、もったいないから、コレ今日はしない。今度、ちゃんとした格好のときに着けたい」
なんていう、航平にしては最上級にイジラシイことを告げ、マフラーを解こうとした指を掴まれたのだ。これ以上ないぐらい、底意地悪い笑顔を作った川瀬に。同じくこれ以上ないぐらいあくどい笑い声とともに。
「あー、それ取んない方がいいぞ。取ると、イロイロ不都合な痕がくっきりはっきりわかるから」
イヒヒと形容してもいいぐらいの笑い声が後を引く。
まさか川瀬が、新入部員の上田雅晴を筆頭に、その他大勢の女装サンタ航平目当てのパーティ参加者を牽制して、キスマーク乱舞をやらかしたなんて全く考えつきもしない航平は、鏡で確認したそのすさまじい首筋の様子に茹でダコみたいに真っ赤になって怒り出した。
「うわぁあああああ!!! 川瀬の大バカヤローーーーーーーーーーーーーっっ!!!!!!!!!!!!」
イブの夜にこだまするのは、トナカイの鈴の音でもサンタの掛け声でもなく、航平のそんな大絶叫だった。
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