男にはさまざま悩みがある。
大中小、それぞれあるけれど、これはきっと深刻なほうの悩みだと思う。とくに、俺みたいにここ一年と半年ほども彼女がいないヤローにとっては、頭を悩ませるトコロだ。
やはり、女の子の眼差しはキツイ。
なんだよコイツ!みたいな顔をされても、これは男の本能なんだ。ていうか、こっちだって君しかカウンターにいないから仕方なかったんだから。こんなモンで延滞料金330円を払うのもイヤだしね。
それが、である。
俺のマンションのほど近くに小屋みたいな建物があったんだけど、数週間前に、そこに手が入れられていた。何かできるのかなーと思っているうちに、二日前、とうとう看板が出されてオープンしてしまったようだ。その名も、「レンタルビデオショップ・オスカー」。相当面倒くさがり屋の店主がつけた店名っぽい。自動ドアでもないし。やる気が感じられないよな。
今時、レンタルビデオなんて大型店舗が大量に新作を並び立てて、その他旧作も多数ストックしている。その上、同じ店舗内に本も売っているしCDもゲームソフト買える。だから、こんなちっこい、しかもレンタルビデオだけしか置いてないような店なんか立てて意味があるのか、すぐに時流に流され潰れるだろうって………多分、女の子ならそう思うだろう。
でもね。
こういうのは、男ならぴんと来る。
この店構え。
この安そうな雰囲気。って、もちろんレンタル代が安いわけじゃない。いかにも寂れた感じが男心に第6感をもたらすのだ。
「………やっぱり」
俺は睨んだとおりの店内に喜びの震えを感じていた。
入ってすぐの一等地には、無論、新作が所狭しと並べられている。その裏の棚にはホームドラマとかアクションとかサスペンスとかカテゴリ別けされたビデオが並んである。でもね、それらは全てダミーだ! 証拠に、ほとんど全部、各タイトル一本しか置かれていない。本気で儲けたかったら、すぐレンタルされる新作関係をもっと充実させるに決まっている。つまり、この店は、新作で勝負していないってこと。そんなことしても、大型チェーン店の大量在庫に太刀打ちできるはずないしね。
だからこそ、こういうお店は違うジャンルで勝負してるってワケ。
俺はそれらの”まっとうな”ビデオを尻目に店内の奥に足を伸ばした。棚とかで区切られた入り口の狭いコーナー。でも入ると中はかなりの充実ぶり。そしてそれらは全て、R指定、すなわち成人男子御用達の夜のオカズ………ぶっちゃけていうと、アダルトビデオのコーナーだったりする!
「っしゃ!」
閉店間際の夜の11時50分。あたりに誰もいないことをいいことに、俺は小さくガッツポーズを決めていた。
さっき、入店する時に店員が一人、それも男なのを確認している。今までみたいに、カウンターに女の子がいないときを見計らってこそこそレジに並んだりする必要はないのだ。どうどうと表を出して借りてしまえるこの環境、これこそ俺が憧れていたものだ! 俺と言わず、男の求める、あるべきレンタルビデオ屋の姿勢だ! まさしくここは完璧だ!! アダルトを借りるための最高のシステムだ。
ともかくも俺は一本のビデオを取り上げた。俺の場合、決め手は出演してる女の子の顔。さくら泉ちゃんという名のこのAV女優はけっこう好きだ。喘いでる顔がまたそそる。
時間もないし………偵察がてら、これ一本だけでイイか。
早速レジに向かう。開店二日目なのにも関わらず、全然客入りがなさそうな(こういう店はじわじわ人気になるんだ。そして、掴んだ客は絶対離れていかない)様子で、店員が一人、暇そうに漫画を読んでいるようだった。しかし俺がレジにそのビデオを置いたら、その音で反応して立ち上がった。
「家庭教師奈々子・スパルタ受験勉強編」のタイトルにも冷静に対応してくれる態度。さくさくバーコードを見つけ、それをレジの機械で読み取る。いいねー、この普通の客さばき。やっぱ、男同士、本能が分り合えててイイ。女の子みたいにやたらと白目を使うのはげんなりする。男にとっちゃ普通の行為だし、一応定期的に処理しとかないと溜まって変になりそうだし、そのための素早く盛り上がれる薬みたいなもんだ。睡眠導入剤みたいなもの。
「………あー、お客さん、カード持ってないっすよね?」
料金を言おうとして、その店員はシマッタとばかりに顔をしかめてそう言った。まだこのバイトを始めたばかりで慣れてないのかもしれない。
「えっと、持ってないです」
目があってしまった俺は少しはにかんでから首を振った。ちょっと照れくさいな。最初っからアダルト借りるんじゃなかった。
その店員さんはなぜかまじまじと俺を見つめて、そして上から下に視線を移動させた。
………あ、もしかして俺、疑われてる?
けっこう童顔な俺。ちょっとコンプレックスになってる。でも、ちゃんと成人してるぞ!
「………あー、じゃぁ、カード作るんで質問に答えてください」
そう言うと、店員はレジ横に備え付けのパソコンを弄り始めた。
「お名前は?」
「日比野亘(ひびの わたる)………亘は元旦のたんの字に似ているヤツです」
「学生さん?」
「大学の3年です」
「………へー成人してるんですね」
「………はあ」
くそっ、やっぱり疑われてたのか。パソコンのキーを叩く店員に睨みをいれる。しかし、どこからどう見ても俺よりかソイツのほうが体格が良さそうだ。俺を見て、ガキと思うのも仕方ないのかもしれない。信じてくれなくても、学生証持ち歩いてるから、それを示してやればいいわけだし。
その後、住所とか電話番号を登録し終わったら、プリンターからカードが出てきた。
「はい、これが新規カードになります。なくさない様にしてくださいね。あと、一年で満期だから、一年後にまた再登録ってことになります。そのときは登録料で200円………いや、300円だったかな………ま、それぐらいかかるんで………ああ、今日のところは開店サービスでタダなんですけど」
店員はやる気もなさそうにぶつくさお決まりを並び立てた。出来たてほやほやのカードを渡される。
そしてもう一度、カードを読みこませてからビデオのバーコードも入力しようとして、ふと動きを止めた。
「お客さん………えっと、日比野さん」
いきなり名前を呼ばれて俺は慌てて店員に向き直った。なんだ、この店は客の名前を覚えて、名前で呼ぶよう躾られてる店なのか?
「っ、はい」
借りてる物が借りてるものだけに、内心、どきどきする。
別にこの地区の条例でアダルト禁止とかないよな………そもそも、そんな条例があったら、こんな店出来るわけないけど。
店員は今までのやる気がない態度が嘘かのように、表情を生き生きとさせて俺を見つめていた。なんだかその顔がニヤリと不敵に見える。
「実はですね、とっておきのビデオがあるんですよ〜。あ、もちろん、ヤバク無い系で」
「………はぁ」
「さくらちゃんもイイんですけどね〜。俺的には、絶対こっちのがお勧め!」
「は、ぁ」
なんなんだ、この店員は?呆気に取られている内に、ソイツはレジ下からごそごそとなにやら取り出した。………って、アダルトビデオじゃん。
「倉内愛可ちゃんです。まだ名前は知られてないんですけど、かなりカワイイですよ〜。絶対、こっちを借りるべきです。どうしますか??」
わくわくと期待に胸膨らませたような語り口。さくらちゃんの「家庭教師奈々子」の横にそれを並べてみせる。
でも確かに………言われて見ると、その倉内愛可ちゃんはなかなかの美少女だった。
確かにカワイイかも。
でも。
「あ、料金上げるとか、そんな無体なコトしませんって! さくらちゃんと同じでレンタル料300円で二泊三日、延滞料金1日300円っす!!」
どうしますか?
店員は2つのビデオを両手にとって、俺の目の前でふらふら揺らせてみせた。
そのときの俺は二者択一を迫られていて、両方とも借りるという荒業は念頭に無かった。電灯に飛びこむ蛾のように、本能の赴くまま、店員オススメの愛可ちゃんを手にとっていた。
「すみません、じゃ、こっちを………」
「さすが! 日比野さんお目が高い! ―――んで、この愛可ちゃん、実はまだレンタル可能日を迎えてないんですよね〜。だから、これ返しに来るのは俺がいるときにしてくださいね。俺がうまく回すんで。………あ、俺、明後日のこの時間で入ってますんで、そこんとこよろしく。で、俺の名前は藤代ね。藤代公樹(ふじしろ こうき)」
やたらと自分のリズムで話を進めていく店員―――藤代に、俺はそのとき、こう答えることしか出来なかった。ホント、気が飲まれてたんだと思う。だってさ、初対面で店員でしかも俺、アダルトビデオとか借りてんだぜ? なんなんだ、このアップテンポは? もっと、こう、俺の理想としてはさばさばと後腐れなく借りられるほうが良かったんだけどさ。ま、カワイイ子を新発掘ということで………
「どうも………ご丁寧に………」
財布から300円を取り出しながらそう言った。
翌々日の夜。
俺は約束どおり藤代のいる時間を狙ってビデオを返しに行った。
「どうでした? 良かったでしょ?」
しきりにそう言う藤代に、俺は首を縦に振ることしか出来なかった。
………だってさ、イイってことはつまり、だよなぁ。男同士とはいえ、他人のコイツと何故にそういう話をしないといけないんだ?? なのに藤代は、「何回ぐらいイけました?」とか「日比野さんってどこらへんがツボですか?」とか平気なツラして聞いてくる。衒いの無いやつだな。まったく。
なんて、その日も藤代の口車に乗せられて、レンタル許可前の新作を一本借りさせられた………借りさせて頂いた俺が言える台詞じゃないな。
実は藤代オススメの倉内愛可ちゃんもかなりの愛らしさで、二日とも俺のオカズとなってくれたり大助かりだったんだよね。………はあ、早く彼女欲しいな。一年半も一人身はそろそろ持たなそうだ。イロイロと。
「お〜、日比野さんいらっしゃーい」
気がついたら、とっくに常連になってしまった俺である。
彼女を作りたいくせに、こんなところに入り浸ってアダルトビデオ借りまくってたら、出来るもんも出来ないだろ〜な〜。でも、ま、男なんてみんなこんなもんだけどね。
「どーも」
軽く藤代に会釈する。いつものごとく、藤代はラストの時間を一人で任されているらしい。客足も引いたようで、店内には他の客はもう居ないようだった。
俺はとりあえず棚に並べられた旧作ビデオの類に目を向けていた。いきなり今日はどんなのがあるの?とか単刀直入に聞くのはさすがに照れくさい。関係無いビデオを持っていって、もののついでにオススメビデオがあったら、それまで借りるというのが自然な感じだ。ということは、別にアダルトばっかり見ているわけじゃないよというパフォーマンスだって必要になってくる。これ、男の意地だな。
俺はジム・キャリー主演の「エース・ベンチュラ」を棚から取り出した。ずっと以前に見たことがあったが、そのとき腹を抱えて笑った………抱腹絶倒したのを思い出したからだ。たまにはコメディで潤いを持たせるのもいいしな。それをレンタルしようと決めてきびすを返したときだった。
「うわぁあああああ、懐かしーの持ってますねぇ!」
すぐ後ろに藤代が立っていた。ひょいと手を伸ばしてビデオの空箱を取り上げた。
「俺もジム・キャリー好きですよー! 気が合いますね」
「はぁ………」
前から思っていたんだけど、コイツマジで遠慮ないな。
俺はあきれ果てて藤代を見やった。藤代はそれを裏表歓声を上げながら見ていた。が、俺の視線に気づくと―――なぜか、そのパッケージを棚に返した。
「………これもいいんですけどねぇ〜」
いくらか笑気が潜められた口調。
俺はなぜかゾクっと背筋が冷えるのを感じていた。
無意識で一歩後ろずさる。
藤代のどこにもコワそうな雰囲気はないんだけど、その笑顔がマズイ感じがした。
「今日はね、今までよりもっと………もぉおおおおおっと、いいヤツがあるんですよ〜」
気になりますか?と連呼して聞いてくる。
「ど……どんなの?」
なんのことは無い。いつものパターンじゃんか。
なのに俺は妙に焦っていて、声がどもってしまう。
「どんなの………うーん、そうだなぁ、今まで日比野さんに貸したビデオが日本アカデミー大賞クラスだったら、今度のはオスカーかなぁ………くらくらするぐらい気持ちいいですよ」
「………へ、へぇ」
「日比野さん、今までのもけっこう良かったでしょ? イけたでしょ? でも、なんか満たされてなくないですか?」
気のせいか、じりじり棚に追い詰められてるような気がするし………俺は藤代のその包囲を抜けようと体を横にスライドさせた――――が、その方向に藤代の腕が伸びてきて、行く手を塞いだ。ハッと反対側を向いたら、そちらにも藤代の腕が生えてきて、気がついたら俺は藤代とビデオの棚の間に挟み込まれていた。
「ふ……藤代クン?」
「日比野さんって、実はこういうの好きでしょ? 俺、イかせてあげますよ。あなたのイくときの顔って気になるし………」
「え………!!」
抵抗する暇もなかった。藤代の唇がすっと伸びてきて、叫ぶべくかたちどられた俺の唇を覆い尽くした。
眩暈がするぐらい、いきなりの深いキス。
………って、これって、前回借りたビデオの設定そのまんまじゃんかぁあああああ!!
そのビデオでは、舞台は本屋なんだけど、店の店員がこんな感じで女優さんに迫っていって、店内でコトを為すという………ストーリーも何もあったもんじゃなく、後はひたすらヤりまくる話だったんだけど………その女優がまたカワイクって、藤代とかなり話が合った覚えがある………って!
つまり、俺も今からそうなるってコト!?
「………ぅん、ふ…藤代…クン?」
俺は必死になって藤代を押し退けようとしたが、キスされてて力が全部こもらない。なんか、カタチだけの「ヤメテ〜」っていうAV女優っぽくて、ますます藤代が熱を入れたキスを施したりする。
さらに両手を絡み取られて抵抗を塞がれた上で、ベルトを巻き取られてワーカーパンツのボタンを外されては、重力に引かれてワーカーパンツは脆くも床に滑り落ちる。
「燃える?」
耳元で嬉しそうに訊いてくる藤代。
コラ、ちょっと待て、俺はAV女優じゃねえ! 現実とごっちゃにすんな!
そう叫ぼうとした俺がぴたりと口をつぐんだのは、おかしな声が出そうになったから。
藤代の手が、トランクス越しに俺のモノに触れたのだ。
「すげ………大変なことになってますよ、日比野さん」
「くっ………………」
そんなのは………
「男の生理現象ってだけじゃないですよね………だって俺、今はじめて触ったんだし」
頭ん中を読まれたみたいに言い訳を否定される。
「やっぱ、日比野さんこーゆーの好きなんだ? でも、彼女とか居ないで困ったでしょ? ………俺が満足させてあげますよ〜」
言いざま、藤代は俺のを擦り上げる。ただでさえ張り詰めていたモノが、新たな刺激に限界までデカくなる。
「あ…っ、や………」
「………うわぁああああ、めっちゃカワイイ声!」
自分でも驚くぐらいしどけない声を上げてしまい恥ずかしいのに、それに塩を塗るような藤代の感想。
顔から火が吹き出てきそうだ。
藤代は気を良くしたのか、俺のをトランクスから出してやると、根元をキツク持って上下に大きく速くしごき始めた。同じ男だから、そういうときのコツは心得てる。そんな動きで、俺はあっさりと絶頂を迎えさせられた。藤代の手の中に快楽を放つ。
「あ〜、イっちゃいましたね。けっこう早いんだなぁ………」
ぐさりとクる一言を藤代は言う。早漏って、男にとっては大問題なんだぞ!! 沽券に関わるんだぞ!!
「………でも、久しぶりだから仕方ないか。ま、これから慣れてくるだろうし、俺としても日比野さんが敏感なほうが面白いし………楽しいし………」
藤代は一人で勝手に結論付けている。
「何言って………?」
「いえいえ、こっちの台詞です………んで、どうでしたか? 良かったでしょ? オスカークラスっしょ? 本物は違うって思ったでしょ?」
「はぁ?」
何言ってんだコイツ………。人を襲っておいて、太い口を叩く男だ。
た……確かに、イっちゃったのは事実だけどさ。なんと言われてもやっぱり生理現象だ。仕方ないんだ。
俺は赤くなって俯きながらも、上目使いで藤代を睨んだ。
が、そんな俺の睨みを、藤代はソフトに受けとめた。にっこりと笑いかけられる。
「でもね〜、日比野さん、まだクライマックスが残ってるでしょ? 油断大敵ですよ」
言うと藤代は、俺が現実認識が出来ない内にてきぱきと体勢を整えてしまった。俺はトランクスも上着も脱がされて、素っ裸で店の床に四つん這いにさせられていた。
「いい眺め〜」
俺の後方に陣取った藤代は乙に入ってうんうん頷いている。
さわさわと俺のケツから太腿のあたりをなでなでする。
「や………やめて、藤代クン」
ようやく、俺はそれだけを告げた。しかし藤代は取り合ってくれるどころか、「また、高度な誘い方ですね〜」とか、完全に誤解している。誤解が高じて、一番ヤバイってところを指で突付いてきた。
「日比野さんのココ、俺に入れてって言ってる」
言ってない、言ってないって!
なのに、藤代は自己完結しててそこに指を突きいれてきた。なんか濡れたように感じるのは、それはたぶん、さっき俺の出した精液だ。
「ぅんんっ! やっ!!」
「………雰囲気出まくり〜!! 日比野さんの声、最高〜〜〜!!!」
それ、ものすごっく間違ってる感想だぞ〜〜〜〜〜!!!!!!!
でも、あんまりの衝撃に俺の脳細胞は破裂寸前で、さっきから思ってることが口から出てこない。出てくるのは、自分の声とは思いがたい女優さんバリのあえぎ声ばかり。
後ろがイイんじゃない。後ろはかなりの違和感で気持ち悪いだけなんだけど、藤代が俺のモノを掴んで離さないから………さっきイったばかりで感覚が鋭敏になってて………
「ぁ、あっ、んぅ………」
びくびくと震えてしまう。
いつのまにか後ろには指が足されていて、けっこう激しく抜き差しされる。なんかそこから音がしてて、耳がイカレそうだ。
「日比野さんのココ、めっちゃ濡れてますよ〜、音聞こえますか?」
藤代はなんというかポイントをきっちり捉えてる男なのかもしれない。今、俺が一番気にしていることを的確に攻めてくる。もっと音が聞こえるように、指使いも巧みにしていく。もちろん、前の方だっておろそかにされてない。リズミカルに擦られて、再び熱を点されていた。
「やぁ……も、やめ………」
はあはあと途切れがちの呼吸の合間を拭ってどうにか言う。
なのに藤代は止めるどころか………
「俺もー、もうダメっぽい………」
うめく様に呟いた藤代は、俺から指を抜くとガチャガチャとベルトを外し始めた。
………これはまさか………まさか、なのか?
「や……やだ、藤代っ!!」
腰を引いて逃げようとしたが、藤代に押さえつけられて、逆に腰を高く掲げられた。うわっ、なんか全部マル見えだよこれじゃぁあああ!
「日比野さんセクシー」
そんなふざけた声と、俺を貫く強烈な痛みが一緒に訪れた。
んで、ジ・エンド。
俺の記憶には汗と精液の匂いと揺さぶりの感覚だけが残って。
体にはずーんと分銅抱えてる感じで。
「タバコ吸う?」
なんか、気がついたらそこは狭苦しい倉庫みたいな場所だった。広さは四畳半ぐらいで、その中にダンボール箱が山の様に積み込まれた上、書類とかごみが散乱していて、かろうじてソファーとその前にテレビが備え付けられているのが、ココは控え室だろうと俺に教えてくれている。
「タバコ嫌い」
「健康万歳なんだね、日比野さん」
藤代は少し慌ててタバコをもみ消した。その慌てぶりはちょっとカワイイ感じ。………って、こいつ実は高校生なんだもんな。親の商売の手助けでカウンターに入ってたなんて詐欺だよな。しかも、虎視眈々とこういう機会を狙ってたなんて………客が居ないのをイイ事に、店のドアの鍵を閉めて準備中の札立てて、その上で俺を襲ったなんて………
「お前も嫌い」
タバコと同レベルで片付けてやる。そのぐらいのさばさばとした口調でわざと言う。
「………えええええー!!!」
あからさまにショックを受ける藤代。そんなショックなら、まず犯すな!このバカ!
「でも、良かったじゃーん。日比野さん、あんあん言ってたよ。それに四回もイったくせに〜」
「ウルサイ黙れ」
「好きなくせに」
「誤解だ」
「………燃えたくせに」
「お前だけだ」
「えええええええっ!!!!!」
またもや叫ぶ藤代。いちいちオーバーアクションだな。
「あんなに俺にイかせて〜とかもっと〜って言ってたのに、そういうこと言うの!?」
「言ってない」
「言ったよ〜! すげーセクシーダイナマイツな声だったし。愛可ちゃんより、イケてる」
「黙れ」
「………でもやっぱり、本物は良かったでしょ?実は良かったんでしょ?」
「知るか」
「俺、明日もこの時間に入ってるよ?」
「………」
「堪んないくせに」
藤代は俺にニヤリと笑いかけた。
コイツのこの自信はいったい何なんだろう?絶対俺が明日も来るって思ってる。そんなに俺ってがっついてんのか?
わかんない。
でも。
こんな風にされたら、こんなに何度もアツクさせられたら、たかだかビデオぐらいで、俺、イけるのかな?
ふと感じた
のはそんな不安。
でも。
きっとこれは内緒にしてた方がイイだろう。
明日まで。
明日のこの時間までは、こいつをもんもんとさせてやろう。
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