世界はキミのもの





【ROUND3】

(俺、どうなっちゃうんだろう)
 小菅秀弥の、昨日からの標語のようになってしまった台詞。
 もう何度目なのか、多分、うまれてこのかた吐いたため息をゆうに今日だけで越える―――それほどの回数だと言えるかもしれない。
5限目の古文も、平塚という名のおばあちゃん先生の声がいつも以上にどもって聞こえて、さっぱり意味がわからないままだった。六限目の日本史も、当てられて元禄文化を化政文化と混同するという初歩的なミスを犯してしまった。
 それもこれも、ヤツ―――成瀬孝一郎があんなコトを………
「くっそ〜〜〜!」
 憤りのあまり、歯軋りをしてしまう。よく考えて見ると、自分が抵抗があまり出来なかったとか、竦んでしまったとか………よりにもよって、大変認めるのに抵抗を感じるのだが………か、感じてしまったとか―――――失態の連続だったとも言えるのだが。
 いや、しかし、もしそうだとしても!
 元を正せば、成瀬がキスとかしてくるから………
(そのうえ、よりにもよって、男の俺に対して、あ………んな、ことを!)
 思い出しただけで、頭が沸騰しそうになる。顔が赤くなるどころか、全身が熱を持ってしまう秀弥である。
(ヤローに、イかされてしまった)
 とんでもない失態である。醜態だ。去年の文化祭で女装させられた貴久よりもさらに情けない。
 情けなさの極め付けは、イったとき秀弥のモノが成瀬の口腔に収められていた点である。その激しい快感に、一時も持たなかった秀弥は、成瀬の口内に欲望を吐き出してしまったのだ。いわゆる、それは、フェラの構図ではないか。
 があああああんと、擬音語が秀弥の脳内で炸裂する。
(馬鹿なことを考え付くなよ、俺!)
 あれはあくまで、不意を突かれて、襲われたのだ。了解済みの行為じゃないし、ましてや一方的に晒されただけだし! 男なんて、直接的な快楽にはとんと弱い生き物なんだ。そう、相場は決まっている。
(俺がちゃんと健康ってコトなんだ!)
 とは締めくくるものの、情けなさは尽きない。
 男に襲われて、体格で敵わないからって抵抗もほとんど出来ないまま、昨日に引き続きキスを奪われた上に、服を剥かれて自身を晒され、その巧みな手さばきで昇りつめさせられた。いきり立った秀弥のモノを根元で絞めた成瀬は、イきたいんだったらそう言えと―――ようは、秀弥に「お願い」をしろと言っていた。張り詰めて、堪えがきかなくなった秀弥はあっさりそれを実行した。
(………イかせて、成瀬――――って、俺って!!)
 張り詰めていたのだ。男にしかわからない痛みなんだが、出したいモノを出せないのはまじで苦しいのだ。変なたとえだが、吐きそうで吐けないときって一番苦しいのと同じ感じだと思えばいい。
 とはいえ。とはいえである。
 「イかせて」なんて、そんな恥ずかしいことを口にした自分が一番腹立たしい。
 今度あんな目にあっても、絶対そんなこと言わないぞと秀弥は固く心に誓った。
 それよりもまず、そういう羽目にならないように努力するべきである。最大限、誠心誠意、回避していくべきだ。
(こんなこと考えてる場合じゃない!!)
 秀弥は、思考に気を取られて早足の速度が鈍ってしまっていたのを、再びトップスピードに持っていく。生徒会長という立場上、また生真面目に過ぎる性格のため、廊下を走るわけにはいかなかったが、そう表現されるのにあと少し足りないという程度の速度を保って。向かうは、靴箱。そしてJRに乗って安全な我が家へ帰るのだ。
 秀弥の頭の中で、昼、去り際に成瀬が告げた台詞がよみがえる。

「放課後、付き合え」

 なんと、不吉な予感を匂わせた台詞だろう。
 そんなものに付き合う義務もなければ、遵守する必要もない。秀弥は「君子あやうきに近寄らず」という孔子の名言を思い出していた。「36計逃げるに如かず」だ。やはり、中国四千年の歴史は伊達じゃない。いいことを言う。
 最後の授業の終了五分前からこそこそと手荷物をまとめ、教室の後方の棚にある鞄は諦め必要最低限のものだけ持って、とんずらを決めこんでいた秀弥である。チャイムの音と同時に教室を駆け出した。普段、真面目に教師に質問に行ったり、そのまま宿題を片付けたりしている秀弥をよく知るクラスメートたちは、そんな秀弥の様子に驚きの目を向けていたが、構っていられない。
 秀弥は競歩選手も顔負けに急ぐ。
 あと、1つ。あの角を曲がったら、靴箱だ!
 秀弥は罠を振り切ったウサギもかくや、ふつふつと安堵の気持ちが膨らんでいった。
 一歩ごとに安心するという感覚を味わった人間ってどれだけいるのだろうか。脱獄が成功した囚人くらいか?では、成瀬はさしずめ悪逆な収監であろう。
 気持ちに余裕が出てきたのか、変な想像が秀弥の頭の中で形成される。
 囚人をイビるのが日課の収監。サラサラの髪の毛をかきあげて、口元に邪悪な笑みを浮かべる。逃げようとした囚人に鞭を振り上げたりするのだ。怯えを誘うように、ギリギリで鞭を逸らす。反抗的な態度を取ったら、それを容赦なく肩に降らすのだ。涼しげな雰囲気すら纏わせて。
(………似合いすぎて怖いな)
 そういうヤツって、逃げる獲物をじわじわと仕留めるのが楽しいっていう、性悪な根性の持ち主なんだよな。脱獄とかわかってるのに見逃して、でも、実は掌の上でもてあそんでいるに過ぎないのだ。逃げ延びたとぬか喜びしていた囚人を追い詰め、実に楽しそうに言うのだ。逃げ道はすべてふさいだ上で。鞭を玩びながら。
「待て」
 とかなんとか言って………って?
(え?)
 想像の割には、やけにリアルに聞こえてきたような………。つか、鼓膜を震わす、現実の音――――声。
 秀弥は反射的に声の方を向いた。
 斜め後ろ。
 シャツのボタンを一個外したラフな姿で、サラサラの髪の毛をかきあげ、うっすらと笑みを口元に這わせて近づいてくる、成瀬の方を。
 その手には鞭は握られていなかったが、同じくらいの圧迫感を漂わせている。見えない鞭でがんじがらめにされたように、秀弥はその場から逃げ出すことすら出来なかった。
「そのまま動くなよ」
 命令されるまでもなく、秀弥は身動きが出来なかった。
 まともに相対するのは昼以来で、秀弥の心臓は急激に脈動を早めた。ばばばばっと、頬が染まるのを感じる。
「なななななに??」
 呂律が全然回っていない。成瀬の顔が直視できない。頭がよく働かない。
 そうこうする間にも、成瀬は10メートルの距離を手を伸ばせば届く所へと縮めていた。ちょうど目の前に立たれる。身長差10センチちょっとが、威圧的に感じられた。
「放課後、俺に付き合えと言っただろう」
 頭上から、声が注がれる。なんだか、微妙苛立ちまじりの声。
(こ、こえ〜)
 さすがに、そんなちょっとした怒りでも迫力が違う。
(だ、だけどっ!)
 秀弥も理不尽な言いぐさに対する怒りを覚えているのだ。なんで、成瀬が一方的に「放課後、付き合え」って言ってきたことを俺が守んないといけないワケ?とでもいうところである。
 が、くどいぐらい確認しておくが、秀弥の性格とは生真面目で押しに弱いという特徴がある。押しつけがましく「付き合え」と言われたことでさえ、なんとなくそうしないといけないかなあという気持ちにもなってくるし、その分、逃げることに対して後ろめたさも存在していたのだ。こんな風に、「付き合えと言ってただろう」と詰め寄られると、大変申し訳ないことをしでかしたような気にさえなってくる。………そういう、とことん損な性分なのである。
 怒り半分、すまないという思い半分。
 どちらがより増すか、それは、あっさりと勝負が決まっていた。
(やっぱ、成瀬こええ〜〜〜〜)
 下から仰ぎ見た、成瀬の引き締められた眉根がすべてを決した。
「ご、ごめん。ちょっと………忘れてて」
 埒もつかないことをぼそぼそと呟く。
「ふ、ん。―――まあ、いい。車が来てるから、行くぞ」

 ―――そのまま、成瀬に引きづられるようにして秀弥が黒塗りのベンツに押し込められたのを下校中の数名の生徒が目撃したという。
 その内、秀弥のクラスメイトの佐倉佑子は、証言している。「う〜ん、あれは犯罪の匂いがしたわね。ま、でも、言うじゃない。よい子は火遊びしないって。回れ右して知らぬフリをしちゃったわよ。小菅君も可哀想だけど、相手はあの”帝王”成瀬じゃん。巻き込まれちゃかなわないしね〜。無事生還を祈るってヤツ?」
 祈ってくれなくていいから、助けてくれ。―――せめて、助けを呼んでくれよとは、秀弥の心からの叫びであろう。
 
|||||||||||||||||||||||||||||||||
 
「わあああ、ちょ、な、成瀬ぇぇぇ〜〜〜」
 やっぱり叫んでいると言えば、旬なのは秀弥しかいないだろう。
 黒塗りのベンツ―――ありがちすぎてドラマみたいだが、やくざはやはりそういうものなのだろう。皮張りのとんでもなく広い後部座席に、押しこまれた。成瀬も当然のように横に乗ってくる。こいつ、いつもこんなので登下校してるのかよと状況にそぐわない感想が頭に浮かぶ。後部座席から直接操作できるクーラーはもちろん、冷蔵庫と思しきものまである。中にはジュースとか入ってるんだろう。ああ、でも、成瀬のことだから酒も入ってそう。
 秀弥がものめずらしさで車内を窺っている間に、車は滑るように―――音も振動も極小に発進した。それを確認した成瀬は、秀弥に一瞥をくれた後、運転席に声をかけた。
「高原―――ここ閉めて」
 高原………あの、高原怜二さん?
 おととい、成瀬の家にプリントを届けた際―――今思えばそれがすべての元凶だったのであるが―――、優しく声をかけてきて、その上プリントを預かってくれた人だ。確か、成瀬の付き人をしているって言ってたけど、こういう登下校の世話までしているのか。
 「はい」
 高原はごく事務的に返答した。
 と、するすると運転席と後部座席の間に黒いし切りが上がって、完全に車内を二つに分けた。
「後ろで重要な話し合いをしたりもするからな、これって防音なんだぜ」
 し切りを指ではじいて成瀬がそう教えてくれる。
 へえ、と素直に感心してすぐ、秀弥はぞわぞわと体の奥からこみ上げてくる不吉な予感を感じた。
(なんか………めちゃくちゃ、ヤな予感がする)
 先ほどまで気が付きもしないのに、窓が遮光ガラス仕様で、外から見たら真っ黒であることがその予感を増長してくれている。
「な、成瀬、これからどこ行くんだよ!」
 秀弥は、不吉な予感を吹き飛ばすように精一杯明るい声を押し出す。
「俺、今週末の生徒会の準備しないといけないしけっこう忙しいんだぜ。それに、明日提出しないといけない宿題あっただろ? ほら、数学の52ページの演習問題だよ。………だ、だから………俺、早く帰りたいんだけど―――」
 尻すぼみに小さくなっていく秀弥の声。
 成瀬がじいぃーと、秀弥を見つめているからだ。秀弥にその表情は読み取れなかったのだが、なんというか、体がもぞもぞなってくる感覚。
(あんまし見ないでほしい………)
 秀弥は心なし、成瀬との距離を置こうとする。と言っても、いくら広いとはいえ車の中である、逃げ場はさほど残されていない。
 これは大変やばい状況いう奴ではないか。こんな密閉空間で、前科二犯の成瀬と一緒で………秀弥は、予感が形を為して現実にすりかわっていくのを感じた。
 成瀬が、上体を軽く倒す。それは、固まってしまった秀弥を覆うための仕草だった。
「や………」
 抵抗の声は、空しく成瀬の口にふさがれてしまう。
 あまりにも容易く、秀弥は成瀬に再びキスを許してしまっていた。身を捩って逃れようとするが、元々線が細くて非力な秀弥は成瀬の腕の中にすっぽり収まってしまう。
 あっという間にも成瀬は舌を差し込んで秀弥の口内を荒らす。もう、それだけで秀弥はスイッチが入ってしまったように、成瀬を感じてしまっていた。
 キスの味。―――嫌いじゃないって、いや、むしろイイかも、なんて。
 舌の先端が、甘くしびれる感じ。聞いた話では、そこが一番味覚神経が集中している所だということ。甘味にいっぱいになる。成瀬の、味。
 無意識の所作で、秀弥はそれをこくんと飲みこむ。応じるように、軽く寄せられた眉毛が官能的だった。
「どこに行く、か――――」
 それを見つめ、成瀬は口元すれすれで呟く。
「俺の家だ」
 半ば以上キスに感じていた秀弥だったが、それは聞き逃すことが出来ない言葉だった。ここまで、流されるようにされてしまっている秀弥だが、流された挙句があの、やくざの本拠地では洒落にすらならない。本格的に逃げないととは思うのだが、情けないことに………
(腰が立たねー!!)
 キスで、それだけで、腰が立たないほど感じているありさまだった。ほとんど全体重を成瀬に支えられている。しかも、成瀬は片腕でそれを為しているのだ!
「あ、あの、成瀬。支えてもらってて悪いんだけど、放してくれ。そ、それに、俺、お前の家に行く気は無いから――――って!ええええええっ!」
 懇願する秀弥などそっちのけで、成瀬はしたいままで――――秀弥の腰を持ち上げると、自身の膝の上に秀弥を乗せた。
 これには、さすがの秀弥も猛烈に反抗する。腕を振りまわし、逃げようと暴れるが、背後から抱きすくめられている状態では有効な抵抗は出来ない。なにより、成瀬は10センチ以上秀弥よりもでかくて、後ろから小柄な秀弥を楽に抱きすくめられるほどは肩幅があるのだ。
 足掻く秀弥を片手で押さえて、もう片方の手で成瀬は秀弥のシャツのボタンを上から二つほど外す。首筋に手をまわすと、さらりと秀弥のシャツを肩口まですべり落とした。
「白いな」
 あまりにも耳元近くで囁かれて、その吐息まで耳に掠めて、秀弥はびくんと震えた。
(ま〜待て待て待て待て待てよ、俺!落ち着けって!)
 ソッチのほうに突っ走りそうな己に活を入れる。これが、過去の失態を生んだのだ。平静を保て、俺!と、感覚に引きづられそうな自分を叱咤する。
 が。
 成瀬はあらわにされた秀弥の肩口に唇を落とす。そこを強く吸われ、秀弥は体の中をズンっと突け抜けるものを感じた。
(だ〜か〜ら〜。これじゃ、成瀬の思うがまま!)
 とは思うものの、いよいよ秀弥の牙城は危うくなっていた。あと一突きと言ったところである。そしてその一突きは、成瀬の次の行動であった。
 肩口から、彼の唇はするすると秀弥の首筋に移動した。なんだか濡れたように思えるのは、成瀬が舐めるようにしているからかもしれない。そしてその動きは、秀弥の耳で止まった。
「あ」
 耳たぶを軽く噛まれて、秀弥は成瀬に落ちた。
「ああんっ」
 快楽に染まった声がその証明。三度目の正直と言えばいいのか、だんだんと秀弥の体は快楽に弱くなっていた。与えられる刺激に敏感に反応する。
 耳朶を舌で玩ぶようにされて、体全体に火照りが点る。
 成瀬の腕が下半身に伸び、無駄の無い動きで秀弥のベルトを外し、ズボンを下着と一緒に半ばまでずり下げるのにも、反抗の気持ちは働かなかった。それどころか、昼に与えられた激しい快感を待つように――――成瀬を誘うように、腰が揺らめく。
「秀弥………」
 耳元で――――中に舌を入れられながら名を囁かれては、正気を保てられるはずが無かった。
 成瀬は完全に立ちあがった秀弥のモノを手の中に収めると、小刻みなリズムをつけて上下にしごいた。時々、大きく揺さぶられるのがさらに情欲を高める。先端の一番敏感な所を親指で擦られて、秀弥は限界を訴えた。
「なる、せ………も………」
 はあはあと荒い呼気でそれだけをようやく呟く。
 秀弥の臨界を悟った成瀬は、未だ玩んでいた耳朶に噛み付き、そして告げた。
「イけよ」
 言葉と共に、一気にピッチを上げて秀弥を追い詰める。
 そのスピードに、秀弥は一瞬、意識が飛ぶのを感じた。はじける感じ。
「ぅん!」
 背をしならせて、秀弥は成瀬の手の中に白濁した性欲を吐き出した。
 今更のように、心臓の高鳴りが自覚される。先ほどまでは、快楽を追うので必死だったから、全然気にならなかったのだが、一回吐き出すと、けっこう精神的に落ち着くもんである。
(や、やばい。俺ってば、またやっちまった)
 肩で息を継ぎながら、秀弥はぞぞぞぞーと蒼ざめた。後ろから自身を抱えこむ成瀬の反応が、めちゃくちゃ怖い。
(一回目は口ん中で、今度は手ん中に出しちゃったよぉ………)
 まともに呼吸できない秀弥に比べ、後方から涼しげな波動を寄越してくる成瀬の次の行動が読めない。
 ていうか、この体勢じゃアレ片すのもムリだろ?? 
 察して―――なにより、あまりの居心地の悪さに、秀弥は成瀬の膝から降りる動作を見せた。子供じゃあるまいし、れっきとした健全な高校男児だ。こんな体勢は羞恥の極にある。しかし、秀弥は腰から下が一ミリも動かないのを確認しただけだった。なぜなら腰に―――あろうことか成瀬の腕がしっかり回っていて、秀弥を捕らえていたのだ。
「こっからが本番」
「はあ?」
「今までのは前戯」
 言うのと、ペロンと耳を舐められるのが一緒で、達したばかりの秀弥は体内で疼くモノが勢力を広げるのがわかった。目の前では、成瀬が秀弥の放ったモノを指でこねくり回していて、かなり目の毒だ。ていうか、止めてほしい。ものすごく、恥ずかしいし情けない。
しかし、そんなレベルの恥ずかしさなど宇宙の彼方へ飛んでくような行為を成瀬が始めて、秀弥はどパニックに陥る。
「わ!えっ!? ま、まじ!? 成瀬成瀬成瀬っ!!」
 秀弥の精液まみれの指が、あらぬところをノックしていた。
(わああああ、だれかうそだといってくれぇぇぇぇ!!)
「やめてぇ〜〜〜〜〜!」
 多分同世代のヤツらに比べて奥手のほうの秀弥であるが、セックスの仕方ぐらいよーく知っているし、話だけなら、男の場合の仕方も耳にしたことがある。大抵それは、男にとっては怪談に近いニュアンスで語られているのであり、秀弥にとっても世にもおぞましい行為と定義付けられていた。だってまさか、自分がその対象者になるだなんて、その時は―――いや、今の今だって、信じたくない!!
「助けて!」
 最後の頼みとばかりに足で運転席側の壁を蹴りつける。しかし、防音は完璧の上、壁も運転席のシートだって最上級のものを使用しているのだろう。車は快適なドライビングを展開しつづける。それに、もし秀弥の危機を運転中の高原が気づいた所で―――薄々気づいてやいないかとも思うのだが―――、高原がどちらの肩を持つかは歴然としている。こ主人サマのお楽しみに水を差すような無粋な真似をするはずない。
 秀弥は左右の窓ガラスに目をやった。しかし、最初に確認した通り、ばっちり遮光効果のある薄ぐらいガラスは、外側からは完全に真っ黒に映り、内部で何があってもわかりはしないだろう。よしんば知れたとしても、誰がこれだけまるきりやくざな車の中での惨劇―――少なくとも秀弥にとってはそう認識されている―――に首を突っ込むというのか。秀弥だって他人事なら間違いなく見て見ぬフリを決め込む。
(やっぱ、ヤられちゃうんだよ俺〜〜〜〜)
 イヤな予感だって、しっかりはっきりあったのに、成瀬の迫力に押されて流されてしまった果てがこれである。誰を恨もうあてもない。
「入れるよ」
 後悔にどん底まで浸かっている秀弥を意に介さず、成瀬は周辺をほぐすようにしていた動きを直線的に変えた。
 瞬間、つぷり、と異物が入る感覚が秀弥を貫いた。
「いっ………やああああああ!」
 肉体的な痛みと、死守すべき堤防を破られた精神的な痛みが炸裂する。
「やあ!やだって!! まじ止めろ、成瀬ぇ!」
 気持ち悪さがこみ上げてくる。そこは出すとこなんだぞと猛烈に体が抵抗しているのだろう。
「お前はホント煩いな………」
 必死の秀弥尻目に、呆れかえったような声を上げるのは成瀬である。
「もっと違う声出せよ」
(違うってな!くそっ!)
 成瀬はわからないだろうが、かなり気持ち悪いのだ。確かに抽入時の鋭角的な痛みは少なかったが、しかしそれを手助けしたのが―――潤滑油の役目になっているのが自分の精液だと思うと、気持ち悪さはひとしおである。成瀬は指をねじ込むように先に進めた。
「………けっこう、狭いんだな」
 そんなことを言いながらも、止める気配は微塵もない。それどころか、その具合を確かめるように指で円を描く動きをする。
「く………うっ」
 気持ち悪さに圧迫感が+αされる。じわりと額に汗が浮かんだ。杭を打たれた体は、自由を奪われていた。その手を抜いてしまいたかったが、少しでも動いたら、途方もない痛みが襲ってきそうで怖いのだ。
 じっと耐えていた秀弥に何を思ったか、成瀬はさらに指をもう一本進入させた。
「痛い?」
 押し広げられた感覚はあったが、痛みはそうなかった。それでも秀弥は死にもの狂いでぶんぶんと顔を縦に振った。
「まじで?」
 成瀬は依然秀弥を突き刺したまま、軽くかき回すような動きを加えながらしつこく問うた。首筋を舐めあげる。
「まじだよっ!」
 意識を逸らすように、肩で息をつきながら秀弥も真剣に返した。いくら意地悪でも、嫌がらせでも、とにかくなんでもいいから止めてほしかった。
「ここも?」
 成瀬はたぶんにやついてるんだろう。後ろで顔は見えないが、秀弥は確信していた。そんな、性悪な響き。秀弥の体内の2本の指が、奥を突いてくる。
「ここも?」
 今度は違う場所。秀弥はなにかに迫られたようにぶんぶんと首を振るばかり。
 予感。ものすごくイヤな感じ。キワドイ感覚。
 そういうのが感覚神経を支配していて、秀弥を追いたてていたのだ。
「ここは?」
 そして、今日の秀弥の第六感は向かうトコロ敵無しの百発百中だった―――
 そうだ!と叫ぼうとした口が一瞬大きく開いた。
「ああぁん!!」
 次の瞬間その口から零れたのは、まごう事無き情欲に濡れた声で。
 成瀬を、にんまりと笑顔にさせた。
「ここか」
 コツは得たとばかりに、秀弥が反応した箇所を的確に突いてくる。
「あ、うぅん!………やあっ!」
「イイ声だ」
 耳元で囁かれて、脳みそもとろけていく。思考とか、理性とかは完全にどこかへ消え去っていた。本能だけが、刺激に忠実に反応していて。
「はあ………あ、う………ぅん」
 気持ち良すぎてどうにかなりそうだった。それぐらい、そこから与えられる刺激は甘美だった。秀弥は身もだえして官能を訴える。それに答えて、成瀬はそこを強く擦り上げた。
「やぁ………俺、どう、か………なっちゃう」
「いいぜ」
 秀弥の息継ぎの隙に三本目の指を加えながら、成瀬は腰を押さえていた手を、先ほどからびくんびくんと元気良く撥ねている秀弥のモノに絡ませた。最初からトップスピードで秀弥をさらなる高みに持っていく。その下では、三本の指を巧みに使って秀弥を追いたてる。
 秀弥が成瀬に三度の陥落をするのは、そのすぐ後だった。

|||||||||||||||||||||||||||||||||

「着いたよ」
 頬をぺちぺちはたかれて起こされたとき、秀弥はうまく現状認識が出来なかった。
 なんだか、壮絶な事をやらかしてしまった気がするが………
(………って!わ!)
 途端、ついさっきまでの情事が思い起こされて、顔を真っ赤に染める。何せ秀弥は、善すぎてイった瞬間意識をすっ飛ばしてしまっていたのだ。あきれ果てる。情けない。あんだけ抵抗して、止めろと言っておいてこのザマである。
 はっと気がついて―――ザマって、俺、半裸じゃんか!とばかりに、衣服を直そうとしたが、すでに秀弥の衣服はきちんと整えられていた。いつの間にやら、成瀬は後方から真横に移動していた。眼前で、その整った顔を拝める位置。
「………ココ?」
 いくらか怯えた声だったかもしれない。
 なぜなら、その答えを知っていたのだから。

「ココって、さっき言っただろう。俺の家だよ」






別名、「ウサギさん、攫われる」編です。
ビバ、車中行為!!
狭い中、ギシギシ。なんだかいやにやらしくないですか??
しかし、成瀬の車なら余裕でイけるのです。
(02 09.01)



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