【ROUND5】
翌日である。
秀弥にはさすがに二連チャンで学校をサボれるような根性はない。もしくは、腐っても生徒会長といえば良いのか、金曜日の今日は、恒例の生徒会役員会議が放課後に執り行われることになっていた。その一番の重要人物とも言える秀弥が、それとわかっていてサボったり出来るはずがなかった。
とはいえ………とはいえである。
秀弥だとて、一昨日の行為を頭から無視するコトは決して出来なかった。
ありていに言えば、秀弥は成瀬にヤられたのだ。
レイプだ。
お互いの了承した上でのセックスじゃないんだから、アレは襲われたってことなのだ。
(うううううううううううっ………)
たとえ、世間から見たら秀弥がほいほいついていったように見えても、なんだかんだ口車に乗せられて部屋に自ら入っていったとしても、なんだか意識が朦朧となってしまって自分から成瀬にキスをしたのがキッカケで行為に至ったのだとしても、
(俺は俺は俺はっっ、入れられたんだぞっ!)
わかるか、この屈辱。
男ってのは、みんな、穴があったら入れたい方の人種なんだ。
入れて欲しい方の側ではないんだ。
なのに、ムリヤリ(あれをムリヤリといわず何をムリヤリと言うんだ!?)ぐいぐい入れられて、痛いと言ってた割にはあっさり善がってしまった男の気持ちがわかるか?
まだ、最後まで痛かったほうが良かった。
ベッドに移動してからは、そのとんでもない快楽でイきすぎて途中で何度もくたばったりしたのだ。恥だ。人生の瑕瑾………どころの騒ぎでなく、秀弥の人生の最大の汚点をわずか16の身空でつくってしまった。この先どうやって生きていけば良いんだ?
(ああああああああ、返す返すも成瀬めぇええええ!)
ギリギリ歯軋りしてしまう。
しかしその名で思い出すのは、今でもまだ強烈に残像しているアノときの成瀬の顔。
汗が滴り落ちる顔。
目を開けたら秀弥の上で、すぐ真ん前にあった顔。
上気した頬。少しうつろになった目。それを覆う長い睫毛。少し眉根を寄せた額。薄く開いた唇。覗く赤い舌。汗が雫になって溜まった顎先。そのどれもが、例えようもなく綺麗で。艶めいていて。――――視界が、虜になる。
あんあん喚いている中で、それが一番の記憶に残った。
汗に濡れた成瀬は、ものすごく、秀弥が否定出来ないところで最高に綺麗だったのだ。
………絶対に、会いたくない。
出来るならば、このまま2度と顔を合わせたくない。
というわけで、昨日はそんな現実逃避に負けて学校を休んだものの、早速その夜には副会長にして中学来の友人である貴久から電話を受けた。秀弥が学校を休んだことが一度もなかったことをよく知っている人物である。電話の声は心配そうに揺れていた。「ちゃんと病院に行けよ」と、通院していないと言った秀弥に対して心情溢れるお言葉をかけてくれた上、「全快するまで登校するなよ。後のことは心配しなくていいんだから」とまで言われては、秀弥にそれ以上のだだが出来るはずもない。
後のこととはずばり、定例議会のことなのだから。心配をかけさせた上、そこまで貴久に面倒をかけさせるわけにはいかないじゃないか。
その場で、電話越しに貴久に「明日は行けると思う」と断言した秀弥である。
押しに弱いくせして、一度口に出したことを反故することは出来ない性格の持ち主の秀弥がその後もんもんと悩んだのは言うまでもない。
なぜなら、悪の権化・成瀬孝一郎は秀弥と同じ学年、同じクラスなのだから。
成瀬が欠席でない限りは、秀弥が登校すれば是が非もなく顔を合わせてしまうことになる。同じクラスなのに、ずっと会わないでいることのほうが難しい。
そう、絶対に会ってしまうのだ。
(………どんな顔したらイイんだよ)
あの、ヤるときですら綺麗な成瀬を前にして。
平静でいられる自信なんて、芥子粒ほどにもない。でも実際の芥子粒は実は思っていたよりもデカイから、ホントのところ、胡椒の粒ほどにもないって感じである。
こんな風では、もし目なんかあってしまったらどうなるのか、秀弥自身でもわからない。
そう、もんもんと悩んでいる内に日付は新たな時刻を刻み出していた。
そして、7時を回り、重たい体を引きずり起こして出掛ける準備をした。莢佳と莉佳の喧騒を潜り抜けての朝食だけでぐったりなった秀弥である。JRに乗る頃には、すっかりブルーに出来あがっていた。
校門を通るときは、やはり来るのではなかったという後悔で心身は満たされ、教室の扉をくぐるときにそれは第六感が告げる警鐘だったのだと理解した。
「………なるせ………」
秀弥は扉の前で硬直した。
教室の後方、窓際の席で片腕を突きながらこちらを見つめている成瀬と、登校一番で思い切り視線が絡み合ってしまったから。
どくんって、秀弥の体中の血流が波立った。
思い出すのは、成瀬の綺麗な顔。汗で上気した顔。
そして、秀弥の視線の真中にあるのは、そのときと寸分変わらず綺麗な、実物の成瀬。
(………っ)
立ってられなかった。
その場でうずくまる。
己の不覚がめまぐるしく心臓を苛んでいた。
(来るんじゃなかった………マジで、来るんじゃなかった………)
ちらりと成瀬をうかがってしまう。
薄く笑っている唇が印象的。どんな顔をしていても、似合う。
秀弥は息すらうまく出来なくなっていた。
(どんな顔って………)
表情を作ることすら出来なかった。ただうずくまって、体の中の嵐が収まるのを耐えているだけ。
秀弥に出来るのは、ただそれだけだった。
|||||||||||||||||||||||||||||||||
「感じる?」
そう言われた。
行為の度に、しつこいぐらい何度も。
成瀬の囁くような、低音の声。低いから、掠れることなくしっかりと耳に届く。
答えることなんて出来ない。
その、答えをつむぐ舌ですら成瀬に溺れてしびれていたから。
何も言うことは出来なかったんだ。
|||||||||||||||||||||||||||||||||
口から付いて出るのはため息ばかり。
午前中の授業をどうにか乗りきった秀弥である。
(も、だめだ。………死ぬ)
後背で成瀬の気配が感じ取れる度にどくどく心臓が上下左右に暴れ出すのだ。見ないように、ひたすらそっちだけは向かないようにしていても、気配だけはびんびんに、背中がぜんぶ感覚器にでもなってしまったかのように敏感に感じ取ってしまうのだ。授業中ならまだいい。怖いのは授業の合間の休み時間。たった10分しかないのに、これでもかというぐらい秀弥を追い詰めてくれる。もし成瀬が自分のほうへ来たらと思うとうかうか席で身もだえばかりもしていられない。1時間目と2時間目の合間には貴久に会いに行き、その次の休み時間はトイレにこもり、次はクラスメイトの会話に強引に乱入してそいつらを楯にした。そして一番ヤバかったのはついさっき―――四時間目が終わり、とうとう恐れていた昼休みになった途端訪れた。
「小菅」
名前を囁かれたのは、四時間目の数学が終わった瞬間のことだった。
その寸前までいかにしてこの昼休みを安寧に過ごしきるかを考えていた秀弥は、その不意打ちに完全に心身が強張った。成瀬の声なんか、顔を見なくてもわかる。ましてや囁き声なんて………耳元で言われたら………
ガタガタッと勢い込んで立ちあがった。後ろを振り向く勇気なんて秀弥には無い。
「おわわわわっ………なななんかものすごく俺忙しいんだよなぁああああ!!!!!!」
誰かに向けて言ってるわけでもない。なのに、その声はクラス中の注目を浴びるほどでかい声になった。クラスメイトが一斉にこちらを向く気配。しかも、秀弥の後ろにはかの影多き成瀬がいたりして、みんなの視線は痛いぐらいだった。
居たたまれない。
(に、逃げろっ!)
立った勢いで扉に向かってダッシュした。後方でルート上の机や椅子がバタバタ倒れる音がしたけれども、振り向いたり起こしてあげる余裕なんてない。秀弥は必死に走った。いつもいつも、ココで捕まるから辛酸を舐める結果になるのだ。やりたくないことをやらされるのだ。やられるのだ!
ともかくも、成瀬に付けこまれる隙を与えるものか!
秀弥はさほど得意でない全力疾走をその後300メートルほども己に課した。基本的な場所ではダメなのだ。食堂なんてもってのほか。成瀬に腕でも捕まれたらどこにでも連行されてしまうではないか。その際誰かが助けてくれるなんて、あの成瀬相手に無理な話だ。屋上もすでに逃げ場ではないことは立証されている。立証も何も、そこで秀弥は成瀬にアレをナニされたのだから。
(どこが………)
走りながら考え付いたのは、秀弥の根城とでも言える場所。
秀弥はそこへ急ぐべく、進路を定めた。階段を3段飛ばしで駆け上る。
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生徒会長なんてモノになって、秀弥が唯一良かったなと思えるのは、この椅子の座り心地だったりする。年代物のその椅子は、確か、昔校長用のものだったらしく、めちゃくちゃ質がイイ。数年前に、生徒会室に下賜されたそれは歴代生徒会長の指定席になっている。無論、現生徒会長の秀弥の席である。皮張りの背もたれは、秀弥の背中のラインによくフィットする。
その椅子に深く持たれかかって、秀弥は安堵の吐息を漏らした。
(ココなら安全だ………)
なにせ、第二校舎の三階一番奥にあるその部屋は、何か用がないと普通誰も来ないっていうぐらい奥まった場所にあって、大抵の生徒ではその場所すら知らないのだ。しかも、施錠まで出来る。この校内に、ココほど安全な場所は他にあるだろうか?
(ない、あるわけがない)
己の見事な逃亡っぷりに満足げな秀弥であるが、心残りと言えば、ひたすら逃げる気持ちだけでココに飛びこんできたせいで、昼食がありつけないというぐらいだった。しかしまあ、昼一食抜くのと己の貞操では比べるべくもない。約一時間、ここで何事もなく過ごすべきだろう。
もう一度、今度は深く息を吸いこんだ。ゆっくり吐き出す。
まだ七月で、これからまだまだ半年以上成瀬とクラスメイトをやっていかないといけないわけであるが、こうやって毎日ココへ逃げこんだりひたすら避けて通れば、いつかヤツも飽きるかもなと楽観思考に落ちついてくる。昨日まであんなに悩んでいたのが嘘のようだ。そう、あれは犬に噛まれたとかいうことで事故として済ませてしまうしかないのだ。これから先があるよりも、そう考えたほうが絶対建設的だ。
「うん、そうだ。忘れろ、俺。健忘症になってしまえ!」
勢い込んで雄叫んだ時だった。
裏拳でドアを叩く音がした。
「秀弥………ココ開けて」
信じたくないヤツの声まで聞こえてくる。
(ななななんで!!!!!!!!!!)
「なっ、成瀬………っ!」
声が裏返った。
(なんで俺がココに居るってわかるんだよッ!?)
付けて来たにしては、タイムラグがあるし………ってか、そういうことはどうでもイイのだ。ともかくも、ココに居たら鍵をしているから安心だ。「開けろ」と言われて「ハイそうですか」って開けるバカがどこにいる。「待て」って言われて泥棒が待つわけないのと同じだ。
(落ちつけ、俺)
成瀬が入って来れるわけないのだ。まさかヤツも、扉を蹴り倒して入ってくるとかいうダイナミックなことはすまい。うん、確実にココに立て篭もっていれば安全なんだ。スイス銀行の金庫レベルの安全保障済みだ。成瀬が去るまで何時間でも立て篭もってやる。なんてったって、ココが一番安全………あんぜん………………
(………ぅえ?)
ガチャガチャというこの音はなんだ?
かちゃんと何かが外れた音。
続く、きゅっと何やら回されててすぅーと手前に引かれるドア。
顔を出したのは、涼しい顔をした成瀬で。
「なっ………!?」
秀弥は問い質すその声すら出てこなかった。
逆に成瀬は小憎たら………憎々しいほどに冷静に侵入してきた。その手には、事務室に保管されてあるはずの鍵束があって………
(コイツ、俺がココに逃げこむのわかってて………)
事務室なんか、警備とか保安とかそういう配慮が全く皆無である。何気に入って鍵束を掠め取るぐらいワケないだろう。この成瀬にとっては!
「開けろと言ったろ?」
ぴりぴりした空気を背負った成瀬。後ろ手で施錠し直す。
「俺を怒らせたいの?」
あくまで激しない成瀬。それが怖い。そんな無表情で見下ろされたら、びくとも反応できないではないか。
秀弥はじりじりと背もたれにもたれる背に不必要な力が加わるのを感じた。
「………い、、いや、俺もけっこう忙しくて………っ」
「なにが?」
「………う…んと、そっ、そう、今日定例議会とかあって………俺会長だし、昨日休んだから、準備だとか………」
「へぇ」
全然信じてないことがありありの成瀬の顔。
どんどん近づいて来て、なんの躊躇いも無しに秀弥の頬に触れた。
「調子は?」
秀弥を窺うような視線。医者みたいな口調。しかし秀弥は、そんなことより、あんまり近い成瀬との距離に心臓が縮まる思いだった。縮まったかと思えば、限界までデカくなる。それに追随して顔が青くなったり、赤くなったりする。
「………ななななんてことない、かも」
わけもわからず口ずさむ。成瀬は聞き流してさらに問いを重ねた。
「昨日休んだろ?」
「えっ、あ………あ。―――ぅん、ハイ」
「調子は?」
ここに居たって、ようやくその質問の意図が掴めた秀弥である。耳まで赤く染まった。
「イヤ………多分、ダイジョーブです、ハイ」
それだけやっと告げる。大丈夫なわけないだろボケとか突っ込みたいところなのに、やはり押しが弱いところ満点な秀弥である。あまりの羞恥に、首の骨が折れそうなぐらい俯く。成瀬はその秀弥のあらわになったうなじを数度撫ぜた。
と、その手を止めて、
「見せて」
打って変わって愉悦を湛えた言葉を秀弥に告げた。何を?と思う間も与えず、秀弥は己の体が宙に浮くのを感じた。それが落ち付いたときには―――成瀬が、会長用の椅子に座って、秀弥は成瀬の膝に跨るかたちで成瀬と真向かいで座らされていたのだった。
「よく見せて」
秀弥が現実認識に戸惑っている内に、成瀬は秀弥の顎を取り勝手に顔を上向かせていた。
「元気そうだな」
うっとりするほど綺麗な微笑を向けてくる。秀弥はこの姿勢と成瀬の微笑のダブルスパンクでノックアウト寸前だった。それでもどうにか逃れようと、成瀬の胸に手をついて、後方へ体を引いた。と、いつのまにか回っていた成瀬の腕に腰を絡め取られて、びくとも動かないことを確認しただけであった。しかもそちらに気が向いている隙に、下から唇を掬い取られた。
「っ………やぁ……」
簡単に舌を入れられる。舐め取られると、もう、理性が効かない。
「なる、せ………」
為すがままに、シャツを剥ぎ取られ、ベルトを抜き取られていた。はだけた胸に、成瀬の口が伝う。濡れた痕が連綿と続く。果ては秀弥の胸のピンク。その1つを舌で弄られて、秀弥はびくびく反応を返した。
(も、俺………情けなッ………くぅ!)
あんなに逃げようとしたのに、捕まっていざこういう目に会うと、あっさり落ちる。まるで、インランみたいじゃないか。
「やぁ…っ!」
精一杯の抵抗。しかしその口に成瀬の指を入れられてまさぐられて、制止の声すら上げられなくなってしまう。端から零れる唾液。どこからどう見ても、完璧なインランぶり。
「消えたんだな」
そう呟いた成瀬が、体のあちこちに再び淡い緋色の跡をつける、その一つ一つにあられもなく喘いでみせる。
「ぅうん、くぅ、はぁ………」
「イイ声だな」
からかいまじりの成瀬に反抗することすら出来ない。
「もっと、って言えよ」
「………はあ、あぁぁん!」
「言えない?」
成瀬はくすりと笑って秀弥の口から指を抜いた。
「言わせてやるよ」
言いざま、秀弥の膝を立たせて、少し腰を浮かせた。一気に制服のズボンと下着を抜き取る。秀弥は、そのわずかの間に一糸も纏わず裸体にされてしまった。
間髪置かず、成瀬の左手が秀弥のモノを、秀弥の唾液で濡れた右手が後孔を捉えた。
「やっ………なるせぇ!! ああああっ!」
突然与えられる直接の刺激に、そのあまりの強い性感に、秀弥は一瞬で押し流された。前も後ろも、恥ずかしいぐらいそのまんまに反応する。つい先日、ヤられたばかりで、体が覚えているのだ。硬度をます秀弥自身、成瀬の指を受け入れて収縮を繰り返す後ろ。
成瀬は服を着ているのに、秀弥だけが裸で狂ったみたいに乱れてる。
(あぅ…んんっ、……やだ、もう。イヤだっ………)
自分だけがこんなに感じているのが辛かった。成瀬が秀弥の反応を興味深げに観察しているのを見ていられなかった。
気がついたら、無意識の所作で、秀弥は成瀬に抱きついていた。
耐えられなかったから?………………一体、何が?
成瀬は面食らったらしく、一瞬、前も後ろも手の動きがおざなりになった。
しかし、すぐに気を取りなおして、にやりと笑う。
「もっと?」
後ろの二本の指をゆっくりとこねくり回して囁いた。
秀弥はそれに首を前後に振って応じた。
耐えられない。
それはきっと、成瀬の涼しい気配。
思い出すのは、眼裏にこびりついてるのは成瀬の上気した頬。
―――せめて。
あの時の成瀬の息は乱れてた。
秀弥と同じトコロにいた筈だから。
だから。
秀弥の返答に成瀬はすぐさま答えてやった。
「ちょっと、キツイかも」
最初だけ耐えてろって、一昨日と全く同じ台詞をはいて、成瀬は秀弥の腰を持ち上げた。それがストンと落とされた時には、秀弥は体内に成瀬を感じていた。言葉で言うほどには、すんなりと入ったわけではなくて、秀弥はそれこそ泣きじゃくって「痛い」と連呼したのだが。
やっと全部を飲みこめたとき、そのとき成瀬の顔が見えて、秀弥は泣き笑いの衝動に駈られた。でも表情として現れたのは、ひたすらに頬の紅潮で、いつまでも見つめあっているのが居たたまれなくて秀弥はぎゅっと瞼を閉じた。
「感じる?」
くいっと腰を突き出して確認するのも同じ。
だから秀弥は、素直に首を振って答えてやった。成瀬のモノが、前と同じくらい伝わってきたから。だから、首を縦に振った。
途端、揺らされる体。
下からの突き上げは思っていた以上に深くて、強くて、秀弥は必死になって成瀬の首にしがみ付いた。そうしないと体がどっかに行っちゃいそうで、成瀬しか縋るものはなくて。
「うぅっ……ん、んんっ!」
「秀弥………」
成瀬が不意に秀弥の頭を捕まえて、自分の肩口に押し当てた。そして、秀弥の耳朶を舌で舐める。前回で弱いとバレてしまっているそこへの刺激に、さらに下の突き上げは治まることを知らずでもう、秀弥はいっぱいいっぱいだった。触られてもいないのに、突き上げのリズムで成瀬の体と擦れ合う秀弥のモノも限界を訴えていた。張り詰めた先から、秀弥の快感の証拠が滴り落ちる。
しかしそれよりも何よりも、一番に秀弥をノックアウトさせたのは、成瀬がその耳元で囁いた一言。
「………ええっ! あっ、やぁああああっ!!!!」
その意味を考える以前に、成瀬はさらにキツク秀弥を攻めたてて、秀弥の我慢は臨界点を超えた。
「………や、もダメ、イクっ!」
理性なんか吹き飛びまくって、思考回路も弾けとんで叫んだ瞬間だった。
コンコン。
ノックが重なった。
「秀弥、居ねーの??」
副会長にして、長年の友人の声。ドア越しに届いた。
「………たたたたたたか――――」
貴久ッそう叫ぼうとした秀弥の口を成瀬が自らの口で塞いだ。
一瞬静まった室内に、ガチャガチャとノブを回す音だけが響く。
「あれ〜、声したような気がしたんだけどなぁ。しかも鍵閉まってるし」
おい、秀弥寝てんのかーと、どこまでものん気な貴久の声。
(まずい、どうしようぅうううううう???)
どパニックに陥った―――この状態で冷静になれるヤツはそうそういないだろう。だって、男同士がヤってんだぞぉおお!―――秀弥は、成瀬に助けを求めるように視線を送って、その視線が凍りつくのを実感した。
(なんで、コイツは微笑ってんだ!?)
その問いは、体に直接答えを教えられた。先程よりも、さらにリズムを小刻みに揺らされる腰。秀弥の一番イイところを狙い済まして突き上げる。
「やっ、…ちょ、………っくぅ…ぁあ、ん。―――な、なるせぇ??」
戸惑いと、それを上回る気持ちの良さに翻弄される。声が抑えられない。これじゃ………
「聞こえるよ?」
やはり、わかった上でやっているのだ。秀弥は成瀬を睨もうとした。が、後ろを奥深くまで突かれて、ひときわ大きくあえいでしまう。
「ああっ!!」
慌てて口を押さえる秀弥。しかしどうやら声は漏れなかったようで、もう一度「いねぇーのか?」と貴久が乱暴にドアを叩く音がした後、次第に気配は遠ざかっていった。
それを確認したのか、成瀬は何故だか舌打ちをしていた。
「失敗したな………」
一体何が失敗したのだろう?
しかし、またもや、その考えを突き詰める前に成瀬に再び追い詰められてゆく秀弥である。
頭の中には、さっき成瀬が耳元で囁いた言葉が再び甦る。あまりにも強烈な印象過ぎて、うまく思考することは出来ないけれど。全然、ワケがわからないんだけど。
イク手前で、ぎゅんっと視野狭窄になりながらも、追い詰められながらも、きちんと聞こえてきた台詞。
空耳じゃなかったよな?
(成瀬?)
「やっ………はぁっ、くぅ…ん」
成瀬自身も限界が来ているのか、激しい揺さぶりは秀弥までも限界に引き上げていく。背がしなる。
(おまえ言ったよな?)
―――愛してる。
そう、言ったよな?
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